オフィシャルブログ

月別アーカイブ: 2022年9月

機主帆従式近代帆装船に期待

 機帆装船への風向き

1970年代のオイルショック後、文字通り省エネ技術への取り組みが積極的に行われた。現在は地球温暖化の対策が加わり、昔の省エネ技術がリフォームされて脱炭素社会への引継技術として、甦ってきたと感じている。

かつて商船で採用されたが10年程で消えてしまった省エネ技術は、その性能を維持するためのメンテナンス費が予想を上回り、船内保守・操作面からも乗組員の負担が増えて採用されなくなったと推測した。化石燃料費を減らせる手段となる技術に注目が集まり、省力化は二次的(付帯する手段)な扱いになっていた印象もある。 現在の風は、環境に優しく持続性のある方向に吹き、経済面での逆風を乗越える手段を模索していると感じている。身近な船舶推進機関は、燃費削減(Co2排出削減)は基よりカーボンを含まない燃料を求める方向にあり、2030年に向かっての過渡期とは言え、環境に優しくしながら省エネするには、性質が異なる燃料を燃やす技術とそのカラクリを扱える人の能力も必要となる。 持続性については、商船の機関士OBとして、乗組員の負担の面を考えると、水素社会へのつなぎ役の典型を機装帆船(風力を利用する機主帆従式近代帆装船)の再登場に興味を持った。 そこで、近代帆装船の写真をネットで漁ったら、多数の帆装船が建造されていたが、なぜ廃れてしまったのか? そして、蘇った機主帆従式近代帆装船はゼロエミッションに向けてつなぎ役を演じられるか考えてみた。

むかーし昔、インド洋で機帆装船の船影を見て、あれが噂の「新愛徳丸」だと思っていたが、ネットを漁っていて、内航船のタンカーがインド洋を渡る筈は無く、鉱石船の「うすきパイオニア」だった可能性が強い。

臼杵パイオニア 1984 臼杵鉄工所、バルクキャリアー 総トン数:15,575トン DWT:27,468トン

臼杵パイオニア 1984 臼杵鉄工所、バルクキャリアー
総トン数:15,575トン DWT:27,468トン

新愛徳丸 1980年 今治操船 内航タンカー 総トン数:699トン DWT:1,600トン

新愛徳丸 1980年 今治操船 内航タンカー 
総トン数:699トン DWT:1,600トン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネット上で目に付いたのは就航直後の評価レポートだった。省エネ値(燃費節減)が少なくとも20 ~30 %程度と記されていたが、その後の実績は想定に反したため近代帆装船が廃れたとの解説だった。そして風評ではあるが、錨泊中に走錨の危険があったようだ。ガイドをしながら、かつての練習生から、錨泊中に横風を受けて船体が傾いた経験談を聴き、帆を畳んでいても高いマストが風を受ける帆船は、走錨のリスクが高いと理解できた。

この点は、10年程前に「ウィンドチャレンジャー」構想の講演会でマストを釣り竿の様に短くする工夫をしていると知り、マスト、マスト/船体の接続部そして帆の形状の変化に目を向けてみた。  間近にある、帆船日本丸の下部マスト(90年以上前に生産された鋼板を丸めてリベット止め)は、各デッキを貫通して船底まで達している。貫通する部分には樫の木をくさび状に打ち込み、船体に伝わる力の緩衝材になっているが、近代帆装船のマストはどのように船体と繋がっているのか興味をもった。 日本丸Ⅱ世の建造に携わった方から、マストは溶接構造となり、『船体とマストは重ね継手で繋がっており、重なり部分が「ゆとり」となることも期待できる』と伺った。